信頼と不信

 この前『GANTZ』について少し書いたが、この前提示した視点から『GANTZ』を見ていくと、この作品のテーマとでも言うべきものがよく理解できるような気がする。つまり、この作品は、人と人との繋がりを問題にしている作品だ、ということである。

 そもそも、その第一話において、地下鉄の線路に落ちた浮浪者風の男を助けるべきかどうか、という問題が提起されているわけだが、多くの人間が、そこで、ある種の無関心を装っているという点に、作者の不信感を読み取ることができる。つまり、作者にとっては、都市の人間とは、互いの関わりを極力排するようなところがある、ということである。

 こうした点に、玄野と加藤との間の距離、玄野が加藤に対して見出している距離を位置づけることができるだろう。玄野は、基本的に、揺らいでいる人物、自らのアイデンティティが定まってはいない人物として描かれている。それに対して、加藤は、確信に満ちた人物として描かれている。このような、玄野が加藤に向けるまなざしこそ、この作品のベースにあるものだと言える。

 ひとつひとつのミッションで問題になっていることも同種のことだろう。つまり、その目的も意図もほとんど知らされないまま、ほとんど情報がないまま、まったく見知らぬ人間たちがひとつのところに集められて、ひとつの作業を行なう。そこで争点となっているものは、生きるか死ぬかという究極的な事態であるわけだが、作者の不信感は、好んで、登場人物たちに、利己的な行動を取らせようとしているように思える。つまり、初期の頃では、協力関係が非常に築きにくい状況がそこにはあるのだ。

 おそらく、作者は、このような人間関係の希薄さを問題にしたかったのだろう。言い換えれば、そこには、信頼と不信との間の関係、人が他人を信用するその条件を探ろうという問題意識があったように思う。こうしたテーマ設定は、とりわけ、90年代以降のサブカルチャー作品に顕著に見出されるように思う。