アニメ『少年突破バシン』の緩くて狭い世界

 いつも見ている『バトルスピリッツ 少年突破バシン』についてちょっと書いてみたい。


 それにしても、もう40話近くまで放送されているのに、話があまり進んでいないというか、進んでいるにしても非常に緩慢な展開なので、このあとのラストに向けての展開の中で、ひとつかふたつ、何か盛り上がる出来事が起こるのかどうか、そうしたところがちょっと気にかかる(バシンの父が出てくるんじゃないかとか、そういう予想はつくが)。そうした意味では、この作品は、大きな事件が特に起こらない、のんびりとしたアニメが好きな人には、オススメかも知れない。


 僕は、基本的に、低年齢層向けのアニメはかなり好きなほうなのだが、最近は、残念ながら、朝アニメも夕方アニメもほとんど見ていなくて、深夜アニメばかり見てしまっている(これは間違いなく良くない傾向だ!)。そういう限定の上で言うと、『バシン』は、これまでのこの種のアニメ、カードバトルアニメなどの男の子向け玩具販促アニメの物語形式というものをあえて緩くしているところがあるように思えるのだ。


 これまでの男の子向けの玩具販促アニメにおいては、当然のことながら、バトルというものが中心にあったように思うのだが、バトルが中心になるとすれば、何らかの形で、登場人物間の対立関係が描かれる必要があるだろう。善と悪、敵と味方との対立が、最も分かりやすい対立関係である。


 しかし、『バシン』では、こうした対立関係が明確に描かれることはなく、一見すると主人公たちと対立しているように見える組織や人物も、どこかで主人公たちと緩く繋がっていて、善と悪みたいな、世界を二分するような対立関係というものが描かれることはない。


 この作品には、主人公のバシンのライバルとしてJという男の子が出てくるのだが、この男の子がダークサイドに落ちてしまうという、最近よく見かける展開が描かれる。しかしながら、善と悪との明確な対立がないので、Jがダークサイドに移行したとしても、そこでの「ダーク」が何を意味するのか、ちょっとよく分からないところがあるのだ。


 何というか、Jは間違いなく葛藤を抱えた人物、ダークサイドに落ちる悩みを抱えた人物であるのだが、対立構造がはっきりとしないために、そこでの悩みが、具体的な人間関係を離れて、もっと大きなレベルというか抽象的なレベルで問題化されるということがない。単にJは家族関係(父との関係)で悩んでいて、それを打開するためにいろいろと模索してみるが、あまり上手く行かずに空回りしてしまうと、それぐらいの規模の悩みに思えてしまうのである。


 こうした点が、僕は、『バシン』の欠点というよりも、むしろ、良いところなんではないかと思っているのである。


 さらに言うと、バトルもの作品においては、所々に挟まれる大会というものが重要なイベントになってくるのと思うのだが、『バシン』においては、大会の展開が、非常にあっさりと処理されてしまう。数回にわたって大会での試合が描かれるなどということはなくて、たいていは一回の放送で、決勝までの展開が駆け足で描かれるのである。


 こういうところが、『バシン』のアニメの、あえて外しにかかっていると思われるところで、対立関係の描写よりもむしろ、日常生活での緩い繋がりというものを重点的に描こうとしているところがあるのだ。


 玩具を用いた勝負が全世界の行く末を左右するまでに拡大する、などというアニメ作品は、すでにいろいろとあって、こうした展開はもはや定番と言えるところがあるだろうから、そうした意味では、こんな緩い作品があってもいいんじゃないだろうか。僕としては、この狭く小さい感じは悪くないと思っていて、敵なんだか味方なんだかよく分からないキャラクターたちが緩く繋がっている、そうした関係性も悪くないと思っている。深刻な悩みのようなものは一方でちゃんと描かれているわけだが、作品自体が能天気なので、そういう悩みがちょっと浮いてしまっているのが唯一の難点かも知れない。


 カードバトルアニメとか、男の向け玩具販促アニメのこれまでの系列から比べると、いまひとつ盛り上がりに欠けるという点で、熱いバトルが好きな人はそれほど面白くは感じないかも知れないが、大風呂敷を広げていない分、作品世界のバランスは上手く取れていると思う。


 二期もあるという情報をネットで見かけたので、二期目には何か大きな物語が展開されるのかも知れないが、しばらくは、この作品を緩く見ていこうと思っている。