『セキレイ』に見る関係性の問題

 現在、『セキレイ』のアニメの二期が放送されている(『セキレイ〜Pure Engagement〜』)。『セキレイ』の一期が放送されていたとき(2008年夏)、僕は、この作品を見ながら、関係性というものについていろいろと考えていた。そして、今、二期を見ていても、やはり、関係性のことを考えている。
 『セキレイ』の一期が放送されていたときに僕が考えていたのは関係性についてであり、その時点のアニメの多くが関係性をどのように描くかということを問題にしているように思えた。関係性という言葉がやや漠然としているとすれば、コミュニケーションが問題になっていると言い換えてもいい(コミュニケーションという言葉も漠然としたものであるが)。人間と人間とがどのような関係を構築していくのかといったことを問題にしている作品が多かったように思ったのである。
 そうした観点から僕は、二者関係と三者関係、競争的関係と家族的関係などという言葉を用いて、関係性について考えていたが、この路線でいろいろと考えていくのに少し困難を覚えた。なので、この路線での探究は一時停止したままである。
 しかし、『セキレイ』の二期が始まって、2008年の時点でいろいろと考えたことを思い出したので、『セキレイ』を問題にするにあたって、ポイントになりそうなところを、自分の過去記事に準拠する形で、いくつか指摘してみたい。


1、バトルロワイアルというゲーム形式は関係性の縮減だと言える。複雑な関係性を単純明快なものにする。佐橋皆人は、大学受験という課題(社会生活上の課題)を棚上げし、バトルロワイアルのゲームに参加する。
2、家族的な関係性は、しばしば、敵対的な関係や競争的な関係を廃絶する理想的な関係性として提示される。『セキレイ』においては、出雲荘という場所において、擬似家族的な日常生活が営まれる。
3、『セキレイ』をハーレムアニメと呼ぶことは可能だろうが、ハーレムという関係性においては複数性だけではなく唯一性も問題になる。つまり、『セキレイ』においては、アシカビとセキレイとの関係性は唯一絶対のものである。唯一絶対の関係性が並列しているところにハーレムの関係性の特徴がある。


 僕が『セキレイ』を見ていて面白いと思うのは、アシカビと関係した後の(羽化した後の)セキレイたちが、それ以前との関係性を大きく変えるところである。それは、言ってみれば、関係性のツンデレ的な変化を見せるのだ。
 ツンデレは、一般的には、女性のキャラが男性のキャラに向ける関係性の変化に関して用いられる言葉であるが、『セキレイ』が示す関係性の変化は、男女間の一対一の関係性に留まらず、集団への帰属のレベルにおいても生じうる。そこには、家族的な関係性に対するツンデレのようなものを見出すことができるのである。
 僕が『セキレイ』を見ていて一番面白く思っているのはここである。個々のセキレイは、それぞれの性格や歴史や問題を持っていて、そうした固有性にあっては、それぞれが孤独である。しかし、ひとたびアシカビと関係を持ってしまうと、それぞれの固有性を保持しながらも、集団のうちにしっかりと所属する。
 こんなふうに考えると、『セキレイ』においては、敵対的な関係性をどのようにして解消するか、分断しているものをどのように結合するか、といったことが課題になっていると言えるだろう。新しい結合方法の模索は今日的な課題だと言えるが、『セキレイ』においては、単に家族的な関係性の重視という形でそれがなされているわけでもないだろう。むしろ問うべきなのは、家族的な関係性が保持されるためにはそこにどのような支えが必要なのか、ということである。
 『セキレイ』がひとまず提出した答えはハーレム的な関係性というものだろうが、これが最終的な答えであるわけではないだろう。ハーレム的な関係性を共同体のモデルとして考えるのは、本質的かも知れないが、厄介である。
 『セキレイ』が描いていることで最も重要であるのは、関係性の変化にあたっては強い抵抗が生じる、ということである。そうなってくると、いかにしてこの抵抗を除去するか、ということが最も重要な問いになってくるだろう。あるいは、なぜそのような抵抗が生じるのか、というふうに問うたほうがいいかも知れない。
 いずれにしても、『セキレイ』は、様々な関係が切れたり結ばれたりすることに敏感な作品であり、切れた糸を上手く結び直そうと模索している作品である。一度切れてしまった糸を再び結び直すことは困難であるということを描くほうが現代的かも知れないが、新しい関係性の構築という課題は模索され続けるべきである。


(関連する過去記事)
日常の脆弱な関係性から非日常の強固な関係性へ――アニメ『セキレイ』について
http://d.hatena.ne.jp/ashizu/20080819#1219148624
杉崎鍵のハーレム幻想――『生徒会の一存』のOPアニメについて
http://d.hatena.ne.jp/ashizu/20091225#1261763512