真下耕一が作るアニメの特徴

 真下耕一の作品の特徴とは、その緩やかなテンポにあると言える。真下作品で特徴的なのは、風景描写と音楽の使い方で、登場人物たちの台詞は、そうした風景の描写やBGMの中に、言ってみれば、埋没してしまう。


 真下耕一の作品は、例えば、大地丙太郎の作品と比較したときに、その特徴がはっきりするように思う。大地作品においては、しばしば、そのテンポは非常に早く、そうした早さを形作っているのが登場人物たちの台詞であることが分かる。それは、登場人物たちが単に早口であるというだけでなく、台詞というものが、心情説明や状況説明以上の役割をそこでもたされているということである。つまり、大地作品においては、台詞が背景やBGMと同様の効果を生み出しているということである。


 真下作品においては、登場人物たちの台詞は、背景やBGMと等価ではない。むしろ、背景やBGMのほうが、台詞以上に多くのものを語っていると言える。登場人物の多くは寡黙であり、そこで登場する女性キャラクターの多くは、憂いを含んだ表情をしている。こうした女性キャラクターの役割とは、語る者である以上に、見る者である。彼女たちは、世界の流れとでも言うべきものをじっと見ているのである。


 真下作品のこうした特徴が、すでに80年代からあったかどうかは、記憶が定かでないので、よく分からないが、現在の作品の視点から、過去の作品を見ると、おそらく、多くの発見があることだろう。


 真下作品は、そのスローなテンポのゆえに、しばしば、退屈なものになりがちだが、現在放送している『.hack//Roots』は、そのスローなテンポが作品内容と非常によくマッチした作品だと言える。つまり、その世界において(まさに「ザ・ワールド」と呼ばれる虚構世界において)、大変革を起こすような大きな出来事というものは、あからさまには、起こらない。そこで描かれるのは、淡々とした日々の生活である。しかし、そうした日常生活の背後で、何か重大なことが起こっているという実感は、登場人物たちが暗黙のうちに共有しているものである。無数の小さな出来事の背後で、巨大な出来事が静かに進行している。こうした構図を描き出すのに、真下作品のスローなテンポは、非常に適切であると言えるだろう。一枚一枚の層は薄いが、それらが何重にも積み重なることによって浮かび上がってくるものがある。そうした効果を真下作品は生み出すのである。


 『.hack//Roots』は、見る前はほとんど期待していなかったが、思ったよりもいい作品になりそうなので、今後どのような形で終焉を向かえるのかということが実に楽しみである。