東映アニメの50年

 先日、横浜にある放送ライブラリーで催されていた東映アニメーション50周年記念展に行ってきた。大した展示物はなかったが、アニメーションの歴史について考えるいい機会にはなった。そこで、東映のTVアニメについて、少し概観してみることにしたい。


 60年代から70年代にかけて作られた作品の名前をざっと見たとき、マンガ原作の作品が多いことに気がつく。これは、別に、東映の特殊事情ではなく、あらゆる制作会社の作品がそうだったと言えるだろう。つまり、これは、日本のアニメの根幹に関わる問題であり、アニメは、マンガとの関係抜きにしては語れないところがある、ということである。


 東映のアニメ作品の原作を作ったマンガ家たちの名前を列挙してみると、横山光輝水木しげる赤塚不二夫石森章太郎永井豪松本零士といった人たちが、60年代から70年代を彩っていると言える。そして、そのことが、男の向けアニメと女の子向けアニメにおける二大ジャンル、つまり、巨大ロボットものと魔女っ子ものを作り出すことになったと考えられるのである。


 東映は、間違いなく、男の子向けと女の子向けを明確に意識して、作品を作っている。巨大ロボットものは、その後、サンライズの十八番となり、魔女っ子ものは、魔法少女ものとして、80年代に別の段階へと移行することになるが、その先鞭をつけたのは、間違いなく、東映の作品だろう。


 『マジンガーZ』や『魔法使いサリー』といった作品が出てきた当時は、当然のことながら、ジャンルというものに対する意識はなかったことだろう。『マジンガーZ』と『デビルマン』と『ドロロンえん魔くん』との間には、明確なジャンルの違いなどなかったことだろう。「ヒーローもの」ということで、話は終わりだったはずである。しかし、同傾向の作品が積み上げられた結果、それらの作品はひとつのジャンルを確立していったと考えられる。東映は、そこまでの積み上げをなしたという点で、やはり、それぞれのジャンルの先鞭をつけた、と言える。東映は、『大空魔竜ガイキング』を作り、『魔女ッ子メグちゃん』を作ることによって、それぞれのジャンルを作り上げたと言うことはできるだろう。


 さて、次に、80年代の作品をざっと見たとき、まず思うのは、明らかに、アニメを見る年齢層が上がったということである(アニメのキャラクターの頭身が明らかに上がっている)。60年代から70年代にかけて想定されていた視聴者は、おそらく、小学校低学年くらいの子供たちだったろう。それが、70年代から80年代にかけては、小学校高学年から中学生くらいまでを視野に入れた作品が出てくる。こうした変化は、まずは、マンガの領域において起こったことだと言えるが、それが、そっくりそのまま、アニメにおいても起こったわけである。


 80年代の男の向け作品では、週刊少年ジャンプに連載されていた作品の名前が目立つ。この傾向は、現在まで、ほとんど変わらない。しかし、それに比べると、女の子向けの作品に、あまり同時代的な作品がないことに気がつく。『パタリロ!』は例外としても、その他の作品は、外国を舞台にした乙女チックな少女マンガ作品が目立ち、こうした作品は、当時においても、旧時代的なものだったのではないか、と思われる。女の子向け作品に変革が訪れるのは、やはり、90年代に入ってから、『美少女戦士セーラームーン』が作られてからであろう。


 90年代以降の、東映の女の子向けの作品は、『セーラームーン』シリーズと、84年の『とんがり帽子のメモル』以降の日曜朝8時半の枠の作品に限られるようになったと言える。日曜朝8時半の枠は、現在の『プリキュア』シリーズまで続いているという点で、これもまた、ひとつのジャンルを確立したと言えるだろう。だが現在、それ以外に、何か新しい方向性を打ち出している作品は、男の子向け作品も含めて、残念ながら、見当たらないように思われる。もちろん、個々の作品レベルでは、クオリティの高いものも低いものもあるだろうが、何か東映独自のテイストを打ち出した作品というのは、はっきりとはないように思われる。


 1950年代から60年代にかけて、東映は、数々の劇場アニメを作り上げてきたわけだが、この時期が、おそらく、東映の最もクリエイティヴな時期だったのではないだろうか? 『白蛇伝』はもちろんのこと、『長靴をはいたネコ』は、ペロというキャラクターを作り上げた点で、非常に創造的な作品だったと言えるだろう(ペロは、その後、他の作品にも登場し、東映のマスコットキャラになった)。しかし、70年代以降は、劇場アニメがTVアニメのスペシャル版のような地位を占めてきて、東映オリジナルの作品はほとんど出てきていないように思える。何度も言うが、もちろん、個々の作品のレベルでは、クオリティの高いものも低いものもある。しかし、クオリティの良し悪しとは別に、ある制作会社が作るアニメの傾向性というものは間違いなくあり、そうしたテイストの魅力というものは、時に、個々の作品のクオリティを凌駕するものだと言える。


 東映は、今後も、アニメの制作に力を入れていくようだが、時代の流行に流されることなく、むしろ、新しい時代の流行を生み出すような、新しいアニメのスタイルというものを創造してほしいものである。


参考:東映作品ラインナップ