団地の魅力

 大友克洋の『童夢』を読んだ。
 このマンガは団地を舞台にしているが、僕は、このマンガで描かれている団地の雰囲気が非常によく分かる気がした。僕は、別段、団地に住んだことは一度もないのだが、小学生のときの友人が団地に住んでいて、その友人の家によく遊びに行ったので、団地の雰囲気がそれなりに分かる。夕方くらいの時間帯に、その友人の家を出たときの団地の雰囲気というのが、非常に物寂しい感じで、そのために、いつも、鬱々として気持ちで、自宅に帰っていたのである。だから、ちょっと偏った見方かも知れないが、団地というのは、僕にとって、非常に不気味な場所なのである。
 団地の不気味さは、端的に言って、人がほとんどいない、というところにあるように思える。もちろん、ひとつひとつの部屋には人がいるのだろうが、そこから人が一斉に出てくるわけでもないので、基本的には静かなわけである。その静けさが非常に不気味なわけである。
 『童夢』では、飛び降り自殺が描かれているわけだが、これは、おそらく、当時の世相を反映したものだろう。つまり、団地からの飛び降り自殺が多いのはなぜか、ということである。僕は、やはり、それには、何らかの理由があるように思える。自殺の名所というのは、自殺を誘引するような何かがやはりあると思う。
 『童夢』だと、自殺を始めとした様々な事件の背後にあったものは、一種のサイキックウォーズだったわけだが、ここには、表面と裏面との問題がはっきりと現われている。つまり、団地の空間それ自体が非常に薄っぺらいものになり、その背後が不透明になっている、ということである。隣人の表の姿は知っていても、だからこそ、その裏の姿が不気味に思えるのだ。『童夢』でも、特に力を入れて描かれていることは、そのような見た目と内実との過度のギャップだと言えるだろう。
 いずれにせよ、この『童夢』という作品は、団地の魅力を余すところなく提示している作品だと言える。不気味だが、それゆえに心惹かれる場所。そういう場所は、確かに、都市の中にも点在していると言える。